ファーマ=フレンチの3ファクターモデルを東証プライム全銘柄3,946件、43年間(1983〜2026年)でバックテスト検証した結果、中央値CAGR 0.11%、バイ&ホールド比 -2.31%、勝率33.96%という厳しい数字が判明しました。米国で実証された「小型株×低PBR」の組み合わせは、日本株市場では機能しづらいことが実データで明らかになりました。本記事では論文の内容から日本株での検証結果、改善の方向性まで徹底解説します。
目次
ファーマ=フレンチ3ファクターモデルとは
ファーマ=フレンチの3ファクターモデルは、1992年にユージン・ファーマ教授とケネス・フレンチ教授が発表した株式リターンの説明モデルです。従来の資本資産評価モデル(CAPM)が市場リスク(ベータ)のみでリターンを説明していたのに対し、以下の3つの要因(ファクター)を加えることでより高い説明力を実現しました。
3つのファクター
- 市場ファクター(Market Factor): 市場全体のリターン – 無リスク金利。株式市場全体のリスクプレミアムを表します。
- 規模ファクター(Size Factor / SMB): Small Minus Big の略。小型株のリターンから大型株のリターンを引いたもの。時価総額が小さい企業ほど高いリターンを得られる「小型株効果」を捉えます。
- バリューファクター(Value Factor / HML): High Minus Low の略。高PBR株のリターンから低PBR株のリターンを引いたもの(符号が逆の場合もあり)。PBRが低い(割安な)企業ほど高いリターンを得られる「バリュー効果」を表します。
論文の核心的主張
Fama & French (1992) の論文 “The Cross‐Section of Expected Stock Returns” では、1963〜1990年の米国株式市場データを用いて以下を実証しました。
- ベータ単独ではリターンを説明できない: 従来のCAPMが前提とする「高ベータ=高リターン」の関係は統計的に有意でない。
- 企業規模(時価総額)が重要: 時価総額が小さい企業ほど平均リターンが高い。
- PBR(株価純資産倍率)が重要: PBRが低い(割安な)企業ほど平均リターンが高い。
- 規模とバリューの組み合わせ効果: 小型株かつ低PBR株が最も高いリターンを示す。
- エントリー条件: 当該銘柄が「小型株」かつ「低PBR」の基準を満たした時点でロングポジションを取得。
- 保有期間: 条件を満たす限り保有継続(年次リバランス想定)。
- エグジット条件: 条件を満たさなくなった時点で決済。
- 売買手数料: 考慮せず(理論上の最大リターンを測定)
- スリッページ: 考慮せず
- 配当: 含まない(キャピタルゲインのみ)
- 戦略リターン: 上記の3ファクター条件に基づいて売買した場合の年率リターン(CAGR)
- バイ&ホールドリターン: 検証期間の最初に買って保有し続けた場合の年率リターン
- 条件の緩さ: 時価総額下位33%、PBR下位33%という基準では、多くの銘柄が該当してしまう。
- 選別効果の低さ: 条件該当銘柄が多すぎると、真に優れた銘柄を選別する効果が薄れる。
- 市場全体への分散: 実質的に市場全体に近いポートフォリオになっており、ファクター効果が希釈されている可能性。
- 構造不況業種: 繊維・紙パルプ・鉄鋼など、国内需要が長期減少している業種では、低PBRが妥当な評価である場合がある。
- 低収益性の放置: ROE 5%未満の企業が多数存在し、資本コストを下回る収益性でも経営改革が進まない。
- 株主還元の遅れ: 配当性向が低く、低PBRでも自社株買い等で是正する動きが鈍い(近年は東証の要請で改善傾向)。
- 流動性リスク: 時価総額100億円未満の銘柄では1日の出来高が数百万円程度のケースもあり、機関投資家が参入しづらい。
- 情報の非対称性: アナリストカバーが薄く、適正評価されるまでに時間がかかる。
- 成長期待の低さ: 国内市場の成熟により、小型株でも高成長が期待しづらい。
- IPO後の株価調整: 上場直後の高値から長期下落トレンドに入る銘柄が多い。
- 1980年代後半(バブル期): 大型株が急騰し、小型株・バリュー株は相対的に低パフォーマンス。
- 1990年代(バブル崩壊後): 全般的な株価低迷。低PBR株の多くがさらに下落。
- 2000年代(ITバブル崩壊・リーマンショック): ボラティリティ上昇。小型株の下落率が大きい。
- 2010年代(アベノミクス): 大型株・輸出株が牽引。小型株の恩恵は限定的。
- 2020年代(コロナ後): 成長株優位の環境でバリュー株は苦戦。
- バイ&ホールド比でマイナス: 論文では小型株×バリュー株が市場平均を上回るとされていたが、日本株では逆に下回る結果に。
- 勝率の低さ: 33.96%という勝率は、米国の検証結果(50%超)と大きく乖離。
- 発火率の高さ: 99.54%という数字は、条件該当銘柄が多すぎて選別効果が薄いことを示唆。
- 製造業(機械・電機): グローバル競争が激しく、小型株でも収益性が高い企業は評価されやすい。3ファクター効果が比較的機能する可能性。
- 内需型サービス(小売・外食): 国内市場の成熟により成長余地が限定的。低PBRでも株価上昇しづらい。
- 不動産・建設: 資産価値が簿価で評価されるため、PBRの解釈が難しい。低PBR=割安とは限らない。
- 金融(銀行・保険): 低金利環境で収益性が低迷。低PBRが常態化しており、バリュー効果が機能しづらい。
- 収益性ファクター(Profitability): 営業利益率・ROEが高い企業ほど高リターン。
- 投資ファクター(Investment): 設備投資・買収を抑制する企業ほど高リターン。
- モメンタムファクター(Momentum): 過去6〜12ヶ月のリターンが高い銘柄ほど高リターン。
- 対象ユニバースの設定: 「東証プライム全銘柄」を選択。時価総額別に絞りたい場合は「大型株」「中型株」「小型株」のフィルターを活用。
- エントリー条件の設定: 「PBRが下位33%」かつ「時価総額が下位33%」の条件を組み合わせる。
- 保有期間の設定: 「条件を満たす限り保有継続」または「年次リバランス(1年ごとに判定)」を選択。
- エグジット条件の設定: 「条件を満たさなくなった時点で決済」または「保有期間上限(例: 1年)」を設定。
- 検証期間の設定: 1983年以降のデータが利用可能。長期検証ほど信頼性が高まります。
- ステップ1(ノーポジ): 初期状態。ポジション0%。
- ステップ2(ロング保有): PBR下位33%かつ時価総額下位33%の条件を満たした時点でポジション100%。
- 遷移条件: ステップ1→2への遷移は「PBR 全銘柄の33%分位点 AND 時価総額 全銘柄の33%分位点」で設定。
- エグジット条件: ステップ2→1への遷移は「上記条件を満たさなくなった」または「保有日数 >= 365日」で設定。
- ROEフィルターの追加: 「PBR下位33% AND 時価総額下位33% AND ROE > 8%」のように収益性条件を加える。
- セクター別検証: 製造業のみ、内需セクターのみ、など業種を絞って検証。
- 時価総額下限の設定: 「時価総額100億円以上かつ下位50%」のように超小型株を除外。
- リバランス頻度の変更: 四半期ごと、半年ごと、など頻度を変えて最適化。
- モメンタム条件の追加: 「過去6ヶ月リターン > 0%」のように価格トレンドを加味。
- 企業の資本効率が低い: 日本企業のROEは米国を大きく下回り、低PBRの背景に「正当な低評価」があるケースが多い。
- バリュートラップの存在: 低PBRでも業績改善しない企業が多く、株価上昇につながらない。
- 小型株の流動性リスク: 売買コストが高く、理論上のリターンが実現しづらい。
- 株主還元文化の遅れ: 低PBR放置企業が多く、市場メカニズムによる是正が働きにくい(改善傾向)。
この発見は投資理論に革命をもたらし、ファーマ教授は2013年にノーベル経済学賞を受賞しました。
日本株での検証の意義
米国で実証された理論が日本株でも成立するかは別問題です。市場構造・企業統治・会計基準・投資家行動の違いにより、同じファクターが同様のリターンを生むとは限りません。本記事では東証プライム全銘柄3,946件、43年間の実データを用いて、日本株市場における3ファクターモデルの有効性を検証します。
検証条件と定義
検証期間と対象銘柄
| 項目 | 内容 |
|——|——|
| 検証期間 | 1983年1月〜2026年5月(43年間) |
| 対象銘柄 | 東証プライム全銘柄 3,946銘柄 |
| 時価総額別分析期間 | 2016年5月〜2026年5月(10年間、時価総額データ取得可能期間) |
| 銘柄ユニバース | 東証プライム上場銘柄(上場廃止銘柄も期間中は含む) |
エントリー・エグジット条件
今回の検証では、ファーマ=フレンチの論文に基づき以下の条件で売買を行う戦略を構築しました。
検証では「小型株」の定義を時価総額下位33%、「低PBR」の定義をPBR下位33%として設定しています。これは論文で用いられた一般的な分位点に準拠しています。
手数料・スリッページ
実際の運用では売買コストが年率リターンを0.5〜1.0%程度押し下げる可能性があります。
ベンチマーク(バイ&ホールド)
各銘柄について、以下の2つのリターンを比較しました。
バックテスト結果
全体サマリー(1983〜2026年)
| 指標 | 数値 | 解釈 |
|---|---|---|
| 対象銘柄数 | 3,946銘柄 | 東証プライム全銘柄 |
| スキップ銘柄数 | 0銘柄 | 全銘柄でデータ取得完了 |
| 戦略発火銘柄数 | 3,928銘柄 | 条件該当銘柄の多さを示す |
| 発火率 | 99.54% | ほぼ全銘柄で条件該当 |
| 中央値CAGR(戦略) | 0.11% | 年率リターン中央値 |
| 中央値CAGR(B&H) | 2.16% | バイ&ホールド中央値 |
| 中央値超過リターン | -2.31% | 戦略 – B&H |
| 中央値最大DD | -36.75% | 最大ドローダウン |
| 中央値シャープレシオ | 0.07 | リスク調整後リターン |
| B&H勝利銘柄数 | 1,334銘柄 | 戦略がB&Hを上回った数 |
| 勝率(vs B&H) | 33.96% | 約3分の1のみ勝利 |
結果の解釈
中央値CAGR 0.11%という数字は、43年間の長期投資で年率リターンがほぼゼロに近いことを意味します。一方、同じ銘柄を単純保有(バイ&ホールド)した場合の中央値CAGRは2.16%であり、戦略リターンがバイ&ホールドを2.31%下回るという厳しい結果になりました。
さらに注目すべきは勝率33.96%という数字です。3,928銘柄中、戦略がバイ&ホールドを上回ったのはわずか1,334銘柄(約3分の1)であり、残り約3分の2の銘柄では単純保有の方が高いリターンを得られたことになります。
発火率99.54%が示すもの
発火率99.54%(3,928/3,946銘柄)は、ほぼ全銘柄が検証期間中に「小型株かつ低PBR」の条件を満たしたことを示しています。これは以下を意味します。
リスク指標の分析
中央値最大DD -36.75%は、検証期間中に資産が最大で約37%減少したことを示します。43年間という長期間にはリーマンショック(2008年)、ITバブル崩壊(2000年代初頭)、バブル崩壊(1990年代初頭)などの大暴落が含まれており、この程度のドローダウンは想定内と言えます。
中央値シャープレシオ0.07は、リスク調整後のリターンが極めて低いことを示しています。一般的にシャープレシオ1.0以上が優良戦略の目安とされるため、0.07という数字は「リスクに見合ったリターンが得られていない」ことを意味します。
詳細分析: なぜ日本株で機能しないのか
米国との市場構造の違い
| 要因 | 米国市場 | 日本市場 | 影響 |
|---|---|---|---|
| ROE水準 | 15〜20%台 | 8〜10%台 | 低ROEがバリュー株の反発力を弱める |
| 株主還元 | 高配当・自社株買い積極的 | 内部留保重視(改善傾向) | 低PBR株の評価上昇が遅い |
| 小型株流動性 | 相対的に高い | 低い(売買コスト大) | 小型株効果が取引コストで相殺 |
| 企業統治 | 株主重視 | 従業員・取引先重視(改善中) | 低PBR放置企業が多い |
| 会計基準 | 時価会計徹底 | 簿価会計残存 | PBRの解釈に差 |
バリュートラップの存在
日本株市場では「低PBR=割安」が必ずしも「将来上昇」を意味しないケースが多く見られます。これを「バリュートラップ(割安の罠)」と呼びます。
小型株効果の減衰
米国では明確に観察される「小型株プレミアム」が、日本株では以下の理由で減衰している可能性があります。
時期別パフォーマンスの考察
43年間という長期間には、以下のような市場環境の変化が含まれています。
このように、日本株市場では一貫して「小型株×低PBR」が優位性を持つ時期が限定的であった可能性があります。
想定と違った点・考察
想定と違った3つのポイント
なぜ米国と違うのか: 構造的要因
日本株市場が米国と異なる結果を示した背景には、以下の構造的要因があると考えられます。
1. 企業の資本効率の低さ
日本企業の平均ROEは8〜10%程度で、米国企業(15〜20%)を大きく下回ります。低PBRの背景に「正当な低評価(収益性が低い)」があるケースが多く、単純なバリュー投資では成果が出づらい構造です。
2. 株主還元文化の違い
米国では低PBRが放置されると企業買収のターゲットになり、株価が是正されます。日本では敵対的買収が少なく、低PBR放置企業が多数存在します(東証の要請で近年は改善傾向)。
3. 市場参加者の違い
米国市場では機関投資家比率が高く、ファクター投資が広く実践されています。日本市場では個人投資家比率が高く、バリュー投資の実践者が相対的に少ないため、ファクター効果が発現しづらい可能性があります。
4. マクロ経済環境
1990年代以降の日本経済は低成長・デフレ傾向が続き、企業全体の成長期待が低下しました。これが小型株効果を減衰させた可能性があります。
セクター別の傾向(定性的考察)
時価総額データが取得可能な2016年5月以降のデータでは、セクター別の分析も可能です(具体的数値は別途検証が必要)。一般論として、以下の傾向が考えられます。
改善の方向性: 4ファクター・5ファクターへ
米国では、3ファクターモデルに以下の要因を加えた4ファクター・5ファクターモデルが提案されています。
日本株でも、単純な「小型×低PBR」にROE・営業CFマージン・モメンタムを加えることで、バリュートラップを回避し、パフォーマンスを改善できる可能性があります。
カブチャレで同様の検証をする方法
戦略設計のポイント
カブチャレのバックテストV2機能を使えば、今回と同様の検証を自分で実施できます。以下のステップで進めます。
カブチャレのバックテストV3機能を活用
カブチャレの最新機能「バックテストV3(ステップ式UI)」を使えば、より直感的に戦略を構築できます。
追加検証のアイデア
以下のバリエーション検証も有効です。
参考リンク
カブチャレでバックテストを実施する際は、以下の関連記事も参考にしてください。
💭 かぶきちの見解
東証プライム全銘柄3,946件、43年間の検証で中央値CAGR 0.11%、バイ&ホールド比-2.31%という結果は、米国で実証された3ファクターモデルが日本株では機能しづらいことを示唆している。特に勝率33.96%という数字は、PBR低位×小型株の組み合わせが日本市場では安定したリターンを生まないことを意味する。ただし99.54%の発火率は条件該当銘柄の多さを示しており、銘柄選別基準の精緻化(ROE・営業CF等の追加)や保有期間の最適化により改善余地がある可能性も残る。
まとめ
ファーマ=フレンチの3ファクターモデルは、東証プライム全銘柄3,946件、43年間の検証で中央値CAGR 0.11%、バイ&ホールド比 -2.31%という厳しい結果となりました。米国で実証された「小型株×低PBR」の組み合わせは、日本株市場では以下の理由で機能しづらいことが示されました。
一方で、発火率99.54%という数字は、日本株市場に低PBR×小型株の該当銘柄が豊富に存在することを示しています。条件の精緻化(ROE・営業CF等の追加)や保有期間の最適化により、改善の余地は残されています。
米国の理論を日本株にそのまま適用するのではなく、日本市場の特性を踏まえた独自のファクター投資戦略を構築することが重要です。カブチャレのバックテスト機能を活用し、自分なりの検証を重ねることで、真に有効な投資戦略を見つけ出しましょう。
FAQ
Q1. ファーマ=フレンチの3ファクターモデルとは何ですか?
ノーベル経済学賞受賞者ユージン・ファーマ教授らが1992年に発表した株式リターンの説明モデルです。市場リスク(ベータ)に加え、企業規模(時価総額)とバリュー要因(PBR等)が株式リターンを説明する主要因子であることを実証しました。特に「小型株」と「バリュー株(PBR低位)」の組み合わせが長期的に高いリターンをもたらすとされています。
Q2. 今回の検証で中央値CAGRが0.11%と低い理由は?
日本株市場では米国と異なり、小型株×低PBR銘柄が必ずしも高リターンを生まない構造的要因があります。具体的には(1)低PBR銘柄の多くが構造不況業種や経営課題を抱えている、(2)小型株の流動性が低く取引コストが高い、(3)日本企業のROEが米国より低く資本効率が悪い、(4)バリュートラップ(割安だが業績改善しない)に陥りやすい、などが挙げられます。
Q3. バイ&ホールドに勝った銘柄は全体の何%ですか?
検証結果では3,928銘柄中1,334銘柄がバイ&ホールドに勝利しており、勝率は33.96%です。つまり約3分の2の銘柄では単純保有の方が高いリターンを得られたことになります。これは3ファクター戦略が日本株では必ずしも優位性を持たないことを示唆しています。
Q4. この戦略を改善するにはどうすればよいですか?
以下の改善策が考えられます。(1)ROE・営業CFマージン等の収益性指標を追加してバリュートラップを回避、(2)時価総額下限を設定して超小型株の流動性リスクを排除、(3)セクター分散を徹底して景気循環の影響を緩和、(4)リバランス頻度(四半期・半期)の最適化、(5)モメンタム要因(価格トレンド)の追加による4ファクター化、などが有効です。

